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#1 小谷実由の「背中を押す言葉」

なーんにもしないで
自分の中を空っぽにする事も大切なのだよ

一歩踏み出したいし、今いる世界をもっと鮮やかにしていきたい。そんな時、誰かにかけられた言葉やふと触れた言葉が、背中を押してくれることがあります。この連載ではさまざまな人たちの心を軽くしたり、別の場所へ向かう歩みの支えになってくれた言葉をご本人によるコラムで紹介。第1回となる今回はモデルの小谷実由さんの「背中を押す言葉」です。

私の2021年は毎日のように日めくりのカレンダーをめくって過ぎていった。ほしよりこさんの猫の家政婦の漫画『きょうの猫村さん』のもの。漫画に出てくるセリフや、季節にちなんだ登場人物の絵が日々を彩ってくれる。”毎日のように”というのは、時折めくることを忘れて数日分まとめてめくることがあるから。

そんな日めくりカレンダーの中に「なーんにもしないで 自分の中を空っぽにする事も 大切なのだよ」という言葉がある。猫村さんが家政婦として働いているお家のご主人の台詞で、漫画で読んだ時からずっと頭に残っていた言葉だった。

「空っぽ」という言葉と私はあまりにも遠い。以前、日常に突然ぽっかりと空いた隙間をどのように過ごしているのかを書いてみませんか。という依頼から「隙間時間」をテーマにエッセイを書いた。隙間時間という存在を意識していなかった私は、いっそのこと隙間時間マスターを目指そう!と奮起した。しかし1年向き合った結果、マスターする以前に「隙間が苦手かもしれない」という答えを導き出す。そういえば、なんでもやるときはちゃんと時間を取ってしっかりやりたいタイプだったのだ。

性格とは頑固な物である。そんなわけで隙間さえ苦手な私だ、その先にあるような空っぽという状態は一体どうすればいいのだろう。隙間どころか、私の頭の中は空っぽと真逆のいっぱい状態であり、絶えず何かを考え続けている。考え続けていないと自分が怠けているように思えて心配でたまらないのだ。空っぽって難しいよね、ご主人は難しいこと言うなぁ…というのがあの言葉を読んだ時の第一印象であった。

そして1年ほど経って、日めくりカレンダーで再びあの言葉に出会った。相変わらず私の頭の中はいっぱい状態で、隙間時間は意識しないと見つけられない。しかし、この1年の間になんと「空っぽ」の喜びを発見していた。

仕事がたまたま続いて目がまわりそうになった時期があり、頭がいっぱい状態に慣れているつもりでも何かが弾けそうになった。そんなとき、週に1度何も課さない日を作ってみたのだ。言うなれば空っぽの日。散歩に出かけてもいいし、本をずっと読み続けてもいい。一日中パジャマでいてもいいし、突然思いついた場所に夕方からでも出かけてみてもいい。

やらなきゃいけないことはある、でも今日だけはやらない。そんな空っぽの日の次の日はやる気が湧いてくる。空っぽって頭の中のことだと勝手に思っていたけど、時間でもよかったんだ。と、カレンダーの言葉を改めて読んだときに深く頷くことができた自分がいて嬉しい。

他にもご主人は「人が抱えられる物は限られているんだよ 欲ばりはいかん。だから時々空っぽにしないとね」ということも言っている。私が次に向き合う言葉はこれかもしれない。なぜなら家のクローゼットや引き出しの中が様々な物でぎゅうぎゅうだ。次は空間の空っぽが目標になりそうだ。とてもハードルが高い。

CREDIT

MODEL

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モデル・執筆家。ファッション誌やカタログ・広告を中心に活躍する傍ら、様々な作家やクリエイターたちとの企画にも積極的に取り組む。昭和と純喫茶をこよなく愛する。愛称はおみゆ。

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ライター / エディター。1990年生まれ、北海道帯広市出身。ロッキング・オン・ジャパン、CINRA.NET編集部を経て2017年夏に独立。BRUTUS、VOGUE、TOKION、TOKYO VOICE等に寄稿。

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