アオイヤマダ
Photography: Shiori Ikeno
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#FEATURE

物語を紡ぐような
アオイヤマダの踊りの源。

Photography: Shiori Ikeno
Interview & text: Aiko Iijima

見る者の五感を震わせるように踊る、20歳の若き表現者・アオイヤマダさん。米津玄師やNulbarichなど多くのアーティストのMVに出演するなど、今注目を集めるダンサーの彼女は、幼少期からずっと「言葉がなくてもダンスがあれば人とコミュニケーションを取れる」と思っていました。しかし、ほんの数ヶ月前から人と関わることに対しての意識が180度変化。恥ずかしがり屋で、なるべく人と言葉を交わさないようにしていた彼女に訪れた大きな変化とそのきっかけ、そして今彼女が見つめる「単純だけど大事なもの」について聞きました。

アオイヤマダ

表現をしているうちに
『恥ずかしさ』が
ちょっとずつ剥がれていった

数年前、筆者が初めてアオイさんと会ったときに受けた印象は、彼女の大胆な表現力からは想像がつかないほど、実はシャイで言葉をゆっくり慎重に選ぶ人だということ。実際、幼少期から人見知りで、人とコミュニケーションを取ることがあまり得意でなかったというアオイさんですが、この日の彼女は「最近文通にハマってるんですよ」とハキハキとにこやかに話し始めます。

アーティスト

「愛知でごはん屋さんを経営している80歳近いおばあちゃんと文通しているんです。そのおばあちゃんが着けていた手作りの刺繍のブローチがとっても素敵で、行くたびに見ていたら私にもひとつくださって。SNSで色んな人と幅広く繋がれるからこそ、手紙や会話で人と直接的にやりとりすることに今すごく心が惹かれています」

アーティスト

この日つけていたブローチも「春のブローチです」とそのおばあさんが手紙とともに贈ってくれたもの。ほかにも仕事仲間の娘さんや父親と手紙を交換したり、かわいいハガキがあると恋人と送り合ったりと、コミュニケーションが苦手どころか、今のアオイさんは人と関わることをとても積極的に楽しんでいるよう。彼女に一体どのような変化があったのでしょう。

アーティスト

「小さい頃から踊って表現をしているうちに、いろんな『恥ずかしさ』がちょっとずつ剥がれていったんです。それで『恥ずかしさを捨てて一歩踏み入れた時に得られるものがある』って気づき始めたというか。人と話すことへの恥ずかしさとか、自分が表現を通して違うものになることへの恥ずかしさとかも、ようやく最近なくなってきました」

ダンス
ダンス
ダンス
ダンス
インタビュー

ここで一歩踏み入れたら
新しい繋がりが生まれる
かもしれない

たとえばカフェを訪れた時ですら、以前は店員さんと目を合わせなかったアオイさん。今はまったく違う感覚で人と関わろうという気持ちが芽生えています。

アーティスト

「前までは私はただコーヒーが飲みたいだけであって、あなた自身には興味がないっていうスタンスだったんですよ。でも、今ここで一歩踏み入れたら新しい繋がりが生まれるかもしれないって思ったら楽しくなってきたんです。だから今は店員さんも、お仕事でお会いする人に対しても緊張せずに、『こんにちは、あなたはどんな人ですか?』って思うようになりました。時には『かわいい服着てますね』って話しかけたり、そういう人間になってみようって思っています」

アオイヤマダ
アオイヤマダ
ダンサー

『嬉しい』を表現した踊りが
『嬉しいでもない悲しいでもない何か』に変わることもある

文字にしたためることでゆっくりと気持ちが伝っていく文通、直接会った人との言葉の交換……ダンスだけでなく、いろんな速度やかたちのコミュニケーション。初めて体験するその感覚、そしてその感覚を共有する他者がいることに、アオイさんはとても喜びを感じているように見えます。

アーティスト

「手紙も、『あんなこと書いちゃった』っていうことや自分の思いを全部、相手が取っておいてくれるのがすごくいいなって。自分だけだったら、あとで捨てちゃうかもしれないような思いも、相手が持っていてくれると思うと、書いている時に責任を感じるし、大事にしようって思います。だから最近は喋ったり書いたり、今ここにある思いを目に見えるかたちでアウトプットすることが大切だと感じています」

アオイヤマダ
アオイヤマダ
アオイヤマダ
アオイヤマダ

踊りもその瞬間の感情や情景を表現して人と共有するもの。だから「人と喋るのが苦手でも踊りがあればいい」と思っていたアオイさんですが、最近はそれらがまったく別物だと感じられるのだそう。

「たとえば『嬉しい』と文字で書いたら、ひとつの形容詞や記号として『嬉しい』とそのまま読めるけど、踊りの場合、枠があるようでないというか。『嬉しい』を表現した踊りが、自分のフィルターと相手のフィルターを通して『嬉しいでもない悲しいでもない何か』に瞬時に変わることもある。だから、言葉は言葉、文字は文字、踊りは踊り、ってうまく使いわけたり、逆にもっとそれぞれを共存させて近いものにしていけたら、もっとおもしろいだろうなと思っています」

踊り
ダンス
アーティスト
インタビュー
インタビュー
アーティスト
違和感

無理やりにでも人と会っているとだんだん脳みそが変わっていく感じがした

そんな気づきを「子どもが新しく覚えた言葉をひたすら使っているようなウキウキ」と表現するアオイさん。しかし、ほんの数ヶ月前、誰にも会いたくなくなってしまった時期があったといいます。

「ちょうど舞台をやっていた時期に、とにかく動けないし、何を食べても何も感じなくなってしまったんです。かなり集中して役に入り込んで踊っていたのですが、公演が続くなかで『役になりきって涙が流せないし、笑えない』ってなってしまって。今思えばものすごくプレッシャーを感じていたし、技術を磨かないといけないとか、無知な自分に一体何ができるんだろうかとか、もはや私がこの舞台に立っていいのだろうかと考えてしまって、生きている意味もよくわからなくなりました。人間というものの繊細さと脆さを痛感しましたね」

「とにかくつらくて閉じこもっていたし、空白の時間みたいになっていてあまりその時のことを覚えてないんです」とアオイさん。そんなどん底から、どうやって今楽しく人と関わり直せるようになったのか聞くと、やはり人と会うことで徐々に元気を取り戻していったといいます。

「仕事だったり人に会う必要があったりして、どうしても外に出ないといけない時があったんです。無理やりにでも人と会っていると、だんだん脳みそが変わっていく感じがしたんですよ。自分で考えているだけだと同じ思考回路しか使わないけど、いろんな人の考えや言葉によって新しい回路ができる。それに救われましたし、自然と前向きになっていきました。ずっと休んでいたらダメだったと思います」

アオイヤマダ
アーティスト
アオイヤマダ
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自分が楽しいことをしていればみんなもきっと楽しくなると思う

「踊りもそういうものであれたらいいなと思います」と、アオイさんは踊りに対しての新しい目線を持ち始めました。

「落ち込んだ時期、私は誰かの踊りを見て思考を変えることができなかったんです。それで、踊りってどういう在り方がいいんだろうと改めて考えた時に、私の場合は身体的なテクニックで見せるよりも、ストーリーを表現する、読書の延長のような踊りがグッとくる。落ち込んでいた時期は深く考えすぎていたけど、自分が楽しいことをしていれば、みんなもきっと楽しくなると思うし、それでダメなら変えていこうって柔軟に考えられるようになったかなって思います」

GRIN
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アオイヤマダ

今までは『そんなことで』って思っていたことも私は『そんなことで悩んじゃう人』なんだからそれでいい

苦しい時期を経て、多面的に人と関わり、自分の感覚や感情をポジティブに押し広げることができたアオイさん。脚を怪我した経験も重なり、自分のあり方により意識が向くようになりました。

「ちょっと怪我をした時に、人間ってずっと動けるわけじゃないし、意外と脆いものなんだってショックを受けたんです。前までは、ただ立っている自分に自信が持てなくて、踊っている自分にしか価値を見出せなかった。でも、そうじゃなくて、ただ立っているだけで、ただ指が動いているだけで、ただ息をしているだけで、自分にちゃんと価値がある。『自分はここで生きている』ということを意識して理解することがまずは大事なんだということも、いろんな人と話していて気づきました」

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さまざまな気づきの季節を過ごしたアオイさんは、今、声を大にして「人間が好きだ!って思う」と笑顔で話します。

「人との関わり方とか、踊ることとか、単純だけど大事なことがわかるようになった気がします。悩みに小さいも大きいもないから、ちゃんと自分のなかで生まれたことを正直に受け止めて、まわりから何と言われようがちゃんと向き合いたい。今までは『そんなことで』って思っていたことも、私は『そんなことで悩んじゃう人』なんだからそれでいいって思っています」

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アオイヤマダ
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