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ARTIST
NAMICHIE
RYOSUKE YUASA
PHOTOGRAPHY
AIKO IIJIMA
INTERVIEW & TEXT
# FEATURE

なみちえが懐疑心を抱く、機能不全の
「わかりやすさ」

自分にとっての自分とは? まわりから見た自分とは? 多くの人がそんな問いを一度は抱いたことがあるかもしれません。アーティストのなみちえさんは、他人に外見で判断され続けたことをきっかけに「人とのコミュニケーションを再構築したい」という思いで、中学生時代から着ぐるみを作り始めたといいます。

今ではラッパーとしての活動やメディアでの発信でも注目されていますが、数々のインタビューを受けてきた中で「答えてほしいこと」「見たい像」が前提にあるその構造に対して懐疑心が増幅。それと比例するように、自己の多重性が増してきているといいます。

メディアやファンが抱く「なみちえ像」と彼女自身が考える「なみちえ」の乖離の狭間にいる彼女が今、どのように自分を見ているのか聞きました。

「わかりやすく」は
私のためには機能していない

去年まではインタビューを“まともに”受けていましたが、1年ほどかけて人間不信が募っていったというなみちえさん。その自分を破壊しなければならない、でも、インタビューは怖い。なみちえさんはこの1年をこう振り返ります。

「『おまえ、差別受けたことがあったらそんなこと聞かないだろ』ってことを聞いてくる、精神的に殴られるようなインタビューがあって。聞く / 聞かれるという役割だけで、人格の部分を忘れられて質問されることや、『他者のための『わかりやすく』は私のためには機能してない』って思うことが多すぎるんですよ」

同時に自分を俯瞰しながら、「正直言って、差別について喋ってる自分にさえ不快感がある」とも。

「黒人差別の文脈を私がいくら語ろうが、“マジョリティがマイノリティを搾取する構造”に飲まれているのではないかと思い始めたんです。どんなに『私たちはマイノリティにも寛容だ』というスタンスであっても、利益がマイノリティの手に多く渡らなくてはおかしいとも思います。『何も発信したくない』と魂の部分で思っている自分もきっといますが、こういう見た目だから、それを直結させて言葉を求めてくるリスナーがいて、それに対して忌避感が増えました。

私自身がマイノリティであると大々的に提示することはメディアにとって都合のいい引き出しになっているけど、それは私自身を全然形成していないんです。私こそ分断を招くための偶像としてメディアに使われている。私、めちゃくちゃ”普通”なんですよ。この“普通”というのも、私が自分で思っているだけのものでしかないですが、めちゃくちゃ健康で、普通の家庭に育っている。そういう“普通”の部分も大事だと改めて気づきました」

自分が発した言葉、それを書き換えた誰かの言葉、そしてそれを受け取る人の言葉、そのすべてをつくりだすと同時に内包する「インタビュー」というちぐはぐさに、「“メディアが私の中身を引き出す”という構造自体が私を私たらしめていない」となみちえさんは話します。

「インタビューって、私を引き出すように見えて、実は違った私を新たに作り出すだけ。たとえば『私はマイノリティです』みたいな話を発信することを、自分の仕事の何割かに置くこと自体、マイノリティが”普通”の仕事をできない原因になっている。なぜかわからないけど、わかりやすい言葉、わかりやすい表現、わかりやすいかたちを求めている人だけが、『なみちえ様様』みたいな感じになってて」

なみちえ
なみちえ
ラッパー
マイノリティ
ブラックライブズマター
BLM

人が嫌いじゃなくて
人を傷つけない距離がある

そんな思惟の最中にある今、「“偏見や差別に苦しんだなみちえさんのストーリー”みたいに切り取られているインタビューを淡々と訂正しているんです」となみちえさん。

「質の低いインタビューを残して私の人格が作られる不安があるんです。このインタビューも正直怖い。だから、これは私のコンテクストの上の“まともじゃない”インタビューにしたい。“インタビューの構造批判してるインタビュー”みたいな」

なみちえさんは、インタビューの構造上にのみ成り立つ役割の間に人との距離感と対話の密度を見ながら、着ぐるみについて語ります。

「私は聞かれることで傷ついてきたから、人に何も聞かない術を見出してしまっているんですよ。基本的に『朝のルーティンはなんですか?』とかマジで傷つけない言葉しか初対面の人に聞かないっていうディスタンス力。これは別に人間嫌いとかじゃなくて、人を傷つけない絶対的な距離があるというか。たとえば、着ぐるみだったら柔らかさ、かわいさ、喋らない、とかね。そういうことが今の私の発信には通じています」

自分では着ぐるみの姿が
正解だと思っているくらい

「自分が提示するキャラクターを意識しておくと、他者の反応も見当がつく」となみちえさんは続けます。

「着ぐるみを着ていると、喋らなくていいし、違和感を感じる術すらなくせる。ラッパーとは正反対の姿ですが、自分では着ぐるみの姿が正解だと思っているくらい。でも、現在はラッパーのペルソナを前面に出す比率が高いから、着ぐるみを作る時間がなくてちょっと元気がない。

そもそも誰でもいろいろな文脈から“その人”が成り立っていて。私がラップを好きなのは、俵万智の短歌を読むような感覚に似ているというか、言葉を丁寧に整理するのが好きだからですし、何をとっても一概には言えない。だから、一人で家にいることが好きとか、夜の海が好きとか、無為を作り出してる鳥肌実の自作自演のインタビューが好きとか、日本の昔の音楽や昨日の山からの匂い、明日咲く花が好きとか、そういう文脈も語られないと精神がちゃんと補填されない感じがするんです」

着ぐるみ
着ぐるみ作家
着ぐるみアーティスト
なみちえ
なみちえインタビュー
なみちえインタビュー
なみちえインタビュー

私は“私の違和感”を
うまく言語化できてる

「着ぐるみは多重にある人格の具現化」だとなみちえさんは言います。

「自分を遠くから見た時や鏡を見た時に自分じゃないおもしろさ。その乖離があるからこそラップと着ぐるみが並行してできちゃうんですけどね。ずっと自分がメタ的に存在している感じだから、人と会話していても、私はどのベクトルの視点を持ち出せばいいのかがわからない。だから、モノづくりに走って思考を拡張するかのように孤独に逃げるんです」

モノづくりに走る自分。そんな自分を見つめて、なみちえさんは現在地をこう語ります。

人間って誰でも違和感を持っているじゃないですか。それを前提にしたうえで、私は“私の違和感”をうまく言語化できてる。今、私が感じているのは、“私自分が私自分であることを許容しない他人の精神構造”、“周りが私の違和感だけを特別に露呈させようとしていること”、そして“改めて自分の違和感を再露呈させるこの瞬間”に対しての違和感です。

でも、やっぱり自分が思っている人格と他人に思われている人格を統合させて、自分のエゴと社会のエゴをすり合わせなくちゃいけないと思っているんです。他者との関わりは完全に遮断できないし、したいとも思ってない。特にSNSは現代における修行だと思ってやっています。これからもどんどんやります」

CREDIT

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1997年、神奈川生まれ。東京藝術大学先端芸術表現科を首席卒業。在学時には平山郁夫賞、買い上げ賞を受賞。音楽活動や着ぐるみ制作・執筆などマルチな表現活動を行うアーティスト。音楽活動はソロの他にギャルサー:Zoomgals、兄妹で構成されたクリエイティブクルー:TAMURA KINGで行っている。

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福岡県出身。東京工芸大学写真学科卒業後、フォトグラファー 新田桂一氏に師事。2014年独立。三度の飯より写真とスケボーと銭湯好き。

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AIKO IIJIMA

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DIRECTOR
BACON THEATER

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