#FOCUS
TOHKO MIURA
FOCUS VOL.08 三浦透子
こぼれそうな思いを掬って
ありのままの自分で生きてみる
映画『そばかす』で他者とのズレに悩み、恋愛感情を抱くことのないヒロインを演じた三浦透子さん。ご自身の経験に重ねて、改めて大切にしたいという“言葉そのものを聴くこと”の意味について語ってもらいました。
PHOTOGRAPHY
KASUMI OSADA
他人に恋愛感情を抱かない30歳の女性が、自分の幸せは何かを見つけていく映画『そばかす』が12⽉16⽇より公開されます。
ヒロインの佳純を演じた三浦さんは、他者とのズレに悩み、もがきながらも自身と向き合う彼女の姿から、一貫して強さを感じていたと話します。
「彼女の抱える悩みは、彼女の心の強さの裏返しだと感じました。周りとのズレに悩むことができるということはつまり、自分をちゃんと持っているということ。真摯に自分と向き合っている証拠だと思うからです。そして、ズレによって感じる苦しさを知っているからこそ、世間との違いに悩んでいる他者に対しても寛容で、優しい。とても魅力的で、尊敬できる女性だと思いました」
そんな佳純を演じ、これまで三浦さんが、他者との触れ合いの中で大切にしてきた「相手の発する、言葉そのものを聴くこと」について改めて考える時間になったといいます。
「どの作品に関わらせていただく時も新しく触れる感情や価値観から学ぶことがあり、それがこの仕事の魅力の一つだと思っています。今回佳純を演じて、誰かと関わる時、先入観を持って接するのではなく、その人の発する、その人の言葉を聴くこと。それが相手を救う優しさになるんだということを、改めて忘れないでいたいなと思いました」
三浦さんが、相手にフィルターをかけず、もらった言葉を素直に受け取るようにしているのは、他者との関わり合いの中で苦しいと感じる瞬間があったからだそう。
「コミュニケーションの中で、言葉が出てこなくなることがありました。自分の言っていることが相手に分かってもらえないと感じた途端、話せなくなったんです。当たり前かもしれませんが、人に思いを伝えるのって、すごく難しいと思っていて。同じ日本語のはずなのに、別の言語を話してるように感じてしまうこともあります。それは一方的なものじゃなく、きっと相手も私の言葉に対して同じように分からないと感じているのだろうと思います」
そんな時、「この人なら伝わる」と思える人との出会いに救われたといいます。
「『私、今スルスルと言葉が出てきているな』という感覚になる人との出会いは本当にうれしいです。劇中、佳純も自分のありのままを分かってくれる存在に救われる場面がありますが、私も同様に周りの人に助けられた経験が何度もあります。当たり前を押し付けることなく、言葉そのものを聞いてくれる、そんな人たちに支えられてきました。だからこそ私も、自分がしてもらったように、先入観を持たず、その人の言葉を信じたいと思っています」
人との出会いと同じように、三浦さんが身を捧げる芸術にも「自分のことを分かってくれる人が、この世界のどこかにいる」と思わせてくれる役割があると話します。
「私も佳純と同じように、孤独を感じてしまうことがありました。特に学生時代、どうしても学校という小さな環境が世の中の全てのように見えてしまい、近くに分かってくれる人がいなければ、それはもう世界中のどこにもいないのと同然のような気がしてしまっていて。でもそんな時、本や映画に救われることがありました。芸術に触れることで新しい世界が見えて『あ、自分は1人じゃないんだ』と思えたんです」
その孤独感は学生だけではなく、どの環境でも存在すると続けます。
「本作は、静岡県浜松市という地方都市が舞台になっています。東京は多様な価値観が比較的受け入れられやすい場所だと思いますが、そこから少し離れると、やはりまだまだ古典的な一般常識が残っているという場所もあるでしょうし、その中で窮屈さを抱えながら生活している方もいらっしゃると思います。本作のテーマである、セクシュアリティに関したズレだけではなく、何か押し付けられる一般常識みたいなものに対して窮屈さを感じた経験のある方、自分はマイノリティなんじゃないかと悩んだ経験のある方に、ぜひ観ていただきたい映画だと思っています。そして、私も演じることで過去の自分を救ってくれたような芸術の一部になれればうれしく思います」
さまざまな価値観や人との出会いの中で、それらとぶつかり合い、受け入れ合いながら生きる佳純から、自分の人生を肯定する力をもらえる本作。三浦さんの想いを最後に語っていただきました。
「どうしても佳純と同じように、自分はどうして人と違うんだろう、この違いはどうしたら解消できるんだろうと、考えてしまう人もいると思います。でも、本当はそのままにしておいていいものなんじゃないかと思うんです。自分だけが違うんじゃなくて、みんな違うんだから、誰かだけがそのズレを解消する必要なんてないはずです。特別勇気を振り絞らずとも自然に自分の感じていることを伝えられたり、当たり前に自分のことを分かってくれる人がちゃんといると信じられるような、優しい世界になればいいなと思います。この作品がその手助けをする存在になれたらとても嬉しいです」