#FOCUS
SHUKO NEMOTO
FOCUS VOL.06 根本宗子
超越した未来を描きながら
予測しない人生を進む
演劇界をひた走る、劇作家の根本宗子さん。2015年の舞台『もっと超越した所へ。』が今年の秋、映画化されます。初の映像作品に対する想いや根本さんが考える、超越した未来をお聞きしました。
PHOTOGRAPHY
KASUMI OSADA
クズ男を引き寄せてしまう4人の女性の恋愛模様と、彼女たちが意地と根性で起こす奇跡をエネルギッシュに描いた『もっと超越した所へ。』が10月14日より公開されます。演劇界の芥川賞とも呼ばれる岸田國士戯曲賞の最終候補に4度ノミネートされ、来年1月には女優の高畑充希と初タッグを組む『宝飾時計』の公演が控えているなど、今演劇界の最前線にいる劇作家の根本宗子さんが脚本を務めました。2015年の舞台では演出家としてより力をつけるための作品だったといいます。
「当時、作家として戯曲を書く力が演出家としての自分よりも先に行ってしまった感覚がありました。演出家としてもっと色々なことをできるようになりたいなと思い、舞台を4部屋に区切って、普通の3倍演出をすることに挑戦しました。演出家として超越したいという想いからこのタイトルになりましたね」
タイトルの通り、超越した場所へと辿り着き、演出家としてのパワーもより一層増した根本さんは現在小説家としての一面も。今回の作品においては、戯曲・脚本・小説をすべて担当しています。「誰もやっていないことをやりたい」という気持ちから書き上げたそう。
「日本では、演劇が映画になることは稀で、さらに小説になるときにすべて同じ人が書くことは滅多にありません。同じ書くという行為でもその工程は全く違っていて、ひとつひとつ作り上げたという感じですね。3人がかりでやるものを1人でやっているので、作家としても昔の自分が描いたものに鍛えられた気がします。人がやっていないことがやりたくてこの仕事を選んでいる部分もあるので、すべて自分の力で書いてみたいと思いましたし、結果やって本当によかったです」
書き上げた脚本を手渡したのは、山岸聖太監督。山岸監督でなければ映画化は白紙にしたいと言うほど、強く信頼していたその理由はなんだったのでしょうか。
「この作品は、ダメ男やそんな人にハマってしまう女の子に焦点を当てているようですが、本当はいろいろあるけど生きていかなきゃいけない、人と共存しないといけない、という気持ちを書いています。山岸監督とは数年前から面識があり、よく私の作品を観に来てくださっている中で、性別や役の表面だけで物語を見つめていない感じがしていて。役を一人の人間として捉える感覚も近いように思えて、映像化を任せるなら山岸さんしか考えられませんでした。それに、山岸監督が面白いと思えるものを私も面白いと思えるなと感じたので、タッグを組みたかったのも理由の一つです」
映画の中で描かれている4名の女性は、失敗をしたくないという思いからある行動に出ます。勇気を持って前進していくことに対して、根本さんの考えをお聞きしました。
「私は中学生の頃スキーのモーグル選手をやっていたのですが、怪我を負い辞めることになりました。目標に向かって段階を踏んでいたものが急に0になり、人生は明日変わるかもしれないのだと感じたんです。それなら、やりたいことを悔い無くやっておきたいなと思いましたし、想いは言葉にしておきたいですね」
「人はそれぞれ生きてきた過程も生き方も違うので、絶対的にこうした方がいいということは言えませんが、失敗しないようにしようとすると予想もしなかった人生にはならないと思うんです。だからこそ“失敗したらどうしよう”とあまり気にしない方がいいんじゃないでしょうか。私は失敗したら嫌だと思って物事を決めることがあまりなくて。これをしなかったら後悔する、それならやった方がいい、言った方がいい、という選択をしています。その方が自分の性には合っています」
人生はいつ変わるかわからないからこそ、失敗を恐れず常に超越した場所を目指し続けている根本さんが、今思う“もっと超越した場所”はどんなところなのでしょうか。
「20代は何歳でこれをやって、この劇場で公演して、ということをかなり明確に決めていました。それを一つずつクリアしていく感覚で、やれなかったらやめるくらいの勢いで自分を追い込んでいました。ですが30代になって、良くも悪くも疲れたなあと思ったんです。決めすぎていたことで、予測できないことが起きなくなってしまったので、それをしない方が面白いものが作れるかもしれないし、楽しく生きられそうだと思います。どうなるかわからない方が、ワクワクした人生になる気がしています」
希望のある人生を想像しながら、演劇の未来についてこう語ります。
「映画や小説に携わったとしても、根幹はやはり演劇のことを考えています。今後、日本の演劇がどうなっていくかは大きなこととして捉えていて、演劇は好きな人しか観ないからこそ、映画化や小説化をきっかけに観に来てもらえたらと思っています。今回の作品を見たり読んだりした人が、演劇に興味を持ってくれたら嬉しいです。元々は演劇作品なんだ、演劇ってどんなものだろう、という感じで劇場に足を運んでくれたらそんなに嬉しいことはありません」