#FOCUS
RENA MATSUI
FOCUS VOL.05 松井玲奈
心の引き出しを開けるように
演じて、綴る。
『よだかの片想い』で主演を務める松井玲奈さん。原作を何度も読み、大事にしていたことがきっかけで、映画化に至りました。主演を演じた想いや、日頃の表現についての考えをお伺いしました。
PHOTOGRAPHY
KASUMI OSADA
島本理生さんによる恋愛小説『よだかの片想い』に松井さんが出会ったのは、6年ほど前。どんな形で出会い、引き込まれていったのでしょうか。
「文庫化されたときに読んだことがきっかけで、それからずっと大切にしていた小説です。とても好きな場面があって、それを映像で見てみたいという思いがまず初めにありました。周りの人に『何か映像化したい作品はある?』と聞かれたときに、その場面を見てみたい、見るなら私がやってみたいという思いが強く芽生えて、実写化を提案しました」
実際に話が進み、映画化が決まったときは、喜びよりもプレッシャーがあったといいます。
「私がやりたいと言ったことからたくさんの人が動いてくださって実現したこともあり、プレッシャーは感じました。それに、主人公のアイコは女子大生という設定ですが私はどんどん年を重ねていくので、本当にできるのかなと不安に思ったり、私が思い描いている作品になるのか、お芝居ができるのかという葛藤もありました。いろんな受け取り方がある作品で、扱っている題材や恋愛模様を苦しいと感じる人もいると思うんです。まだプレッシャーからは解放されていませんが、この作品を好きだと言ってくれる人がいればいいなと思っています」
31歳になった松井さんですが、年齢は意識せず「日々はひと繋ぎ」と語ります。
「あんまりこの年齢だからこれがしたいと思ったことがなくて、ただただ毎日やることをやって自分を回していっているという感覚が強いですね。その中でいただいたお芝居のお仕事で自分ができる精一杯を重ねていけたらいいなというのは常々思っています」
今作は“下手くそだけど私らしく生きる”等身大の女性を描く「ノットヒロインムービーズ」シリーズの第2弾。主人公のアイコは、顔の左側に大きなアザを持っていますが、そのことに俯かず、凛とした女の子です。松井さんの瞳や心には、アイコはどんなふうに映っていたのでしょうか。
「アイコは真っ直ぐな人だとずっと感じていました。ですがその真っ直ぐさは、恋愛に置き換えるとある意味で不安定さに繋がってしまう。そこが彼女の人としての揺らぎで、魅力なのかな、と思いました。好きになった飛坂さんに対して、初恋だからこそ突っ込んでいってしまう様子が初々しくて可愛いなあと思う部分もありましたね」
松井さんは自身の弱さを「なんでも許容してしまうところ」と語ります。
「自分が興味のあること以外は、良くも悪くも、受け入れすぎてしまうんです。私がちょっと我慢すればその場がうまく回って、みんなが笑ってくれるならそれでいいと思えるんです。優しいねと言われることもありますが、実は無関心とも言えるので、私の弱点かなと思います」
それでも、新しいことに関心を持ち挑戦する松井さん。女優業に加え、エッセイの連載を持ちながら小説を書くなど、執筆業にも意欲的に挑戦しています。違う分野に踏み出していけるその軽快さはどこから来るのかお聞きすると、意外な答えが返ってきました。
「どんどん新しいことをやってみよう、という思いよりも、第一に発信や発散をしないと、私自身の調子が悪くなっちゃうんです。インプットとアウトプットを循環させていかないと身体のなかにモヤモヤしたものが溜まってしまうというか。得たものを溜めておくと熱を持ちはじめる感覚があります。それを発散する方法が、お芝居や書くことです。お芝居は、自分の経験や役のことを考えながら、少しずつ箪笥の引き出しを開けていくようなイメージです。小説やエッセイを書くときは、また違う引き出しから出していて、同じ出す行為でもベクトルが違うんです。いいバランスで今はやれているなと思っています」
9月16日(金)より公開の本作を、どんな人に届けたいか最後にお聞きしました。
「もちろん全ての人に見てもらいたいですが、特に初恋の初々しさを思い出したい人に見てもらいたいなと思います。アイコはこうだったけど自分はこうだったなと思ってもらってもいいですし、自分の記憶や感じたことと重ね合わせて楽しんでほしいですね」