EMMA KAWAWADA
FOCUS
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EMMA KAWAWADA
EMMA
FOCUS VOL.03 川和田恵真
相手を知っていくことで
分かり合えなさを越えていく
日本で暮らすクルド人の少女とその家族が直面する社会問題を丁寧に描いた『マイスモールランド』。日本とイギリスにルーツを持つ川和田恵真監督に、自分や他者を大事にする術をお伺いしました。
PHOTOGRAPHY
KASUMI OSADA
『マイスモールランド』が初の商業長編映画となった川和田監督。日本初となる第72回ベルリン国際映画祭/アムネスティ国際映画賞スペシャル・メンションに選出され、国内外から注目を集めています。映画を作ることへの関心は、ある一冊の本がきっかけだったそう。
「高校生のころに小説だと思って買った本がシナリオだったんです。読んでみると文字から映像が浮かんできて、私もこれを書いてみたいと思いました。そもそも映画は好きでしたが、シナリオなら関われるかも、という直感もあって。大学生で実際にシナリオを書いて監督をする機会があり、初めての作品では悔しい思いもしました。それでも、人とものを作ることの面白さとそれを見てもらうことの喜びが強くあって、自分がこの先やっていきたいことだなと感じました。卒業後に、是枝裕和監督の助手を3年間務めてから独立し今に至ります」
今回の作品では日本に住むクルド人に焦点を当て、難民申請が不認定になる様子や在留資格を失った場合について詳しく描かれています。完成までに5年の月日をかけ、慎重にリサーチを行っていた川和田さんがその目や心で感じたことは何だったのでしょうか。
「7年前に、大きな銃を持ったクルド人の女性兵士を一枚の写真で見ました。どうして自分の居場所や家族を守るために闘う必要があるのか疑問に思い、クルド人について勉強を始めました。日本には約2000人のクルド人が逃れて暮らしていることを知って、実際に会いに行ってみました。彼らは難民申請が認められないことでさまざまな自由を制限されている状況にいます。子どもたちは自分の意志でここにきたわけじゃない、何も選び取ってないはずなのに、学ぶことや将来働くことなど、当たり前の権利を奪われている。そのことにショックを受けました」
川和田監督ご自身が、イギリス人の父親と日本人の母親を持ち、日本で生まれ育ちました。そんな環境だからこそ、幼少期から疑問に思っていたことがあったと語ります。
「私自身ミックスルーツで、国って何だろう、居場所って何だろう、という疑問が昔からありました。クルド人は国も持てず、居場所を持つことも否定されてきた民族。私の状況とは比べようがないですけど、何か根底に繋がる気持ちがあって、映画にしようと決めました。十条にあるクルド料理屋『メソポタミア』店主のワッカス・チョーラクさんに協力していただいて、取材を進めました。映画内のクルド人の生活や文化にまつわる監修もお願いしています」
主人公のサーリャは、在留資格を失ったことで大学の推薦入学が取り消されたり、父親が入管施設に収容され、収入がなくなって家賃が払えなかったりと何度も辛い状況になりながらも、決して折れることなく真っ直ぐな瞳で生きていきます。
「初めはお父さんの顔色を伺いながら過ごすサーリャですが、少しずつ自分の感情をぶつけていきます。サーリャはきっと人との出会いで変わっていったのだと思います。私も高校生のときは親の言うことをとても気にしていました。大学生になって世界が広がっていき、いろんな人と出会うなかで自分がどうありたいかを考えるようになりました。狭い世界にいるとどうしてもそのなかでの意見を気にしてしまいますが、世界が開かれていくことを通して、自分の意志を持つことが大事なんだと気がついてほしいです」
目の前にいる相手がどういう背景や物語を持ってここに今いるのか、そんな想像力は人と接するときに必要だと川和田監督はいいます。
「制作を進めていく中で、分断で終わりたくないなという思いが強くなりました。他人でも家族でも、分かり合えないことはたくさんあると思うんです。人が人を分かろうとすることが大切だと思うと同時に、分かり合えないままどう共存して生きるかも大切だと思います。映画でも考えて表現していきたいです」
社会問題の呈示であるこの作品で、川和田さんが伝えたかったメッセージを最後にお聞きしました。
「観て感じてもらったことをずっと大事に持ってもらえたらなと思いますが、まずはこういった人たちがいることを知ってもらいたいです。難民というと遠く向こうの話のようですが、この映画を通し、私たちのすぐ近くにいることを感じてほしいです。知ることの積み重ねで社会は変わっていくと信じて、私は映画を作っています」