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FOCUS

FOCUS VOL.02 脚本芸人

異色の芸人たちが持つ
物語を生み出す視点

吉住さん、空気階段 水川かたまりさん、かもめんたる 岩崎う大さんが脚本を手掛ける、ドラマ「脚本芸人」。3人が描くのは、世間からちょっとズレた人。その独特の世界観は、日常をどのように見つめて生まれるのでしょうか。

PHOTOGRAPHY
HANA YOSHINO

SCROLL

切ないフィルターをかけて
世の中を見ています

2020年にTHE Wで優勝した吉住さん。コントでは、卑屈でありながらも譲れない大切な感情を抱えて生きている人を描いています。そんな人々はどこから生まれるのでしょうか。

「人生の経験不足をとにかく感じていたので、それを補いたくていろんなものを吸収するようにしていました。ランキング1位の本や映画などわかりやすく大多数の人が面白いと思っているものを読んだり見たりして、みんながコントに入りやすいドアを作るようにしていました。入口は分かりやすくしていますが、コントで描く人はどこか切ないところがあります。中学生のころから、勝手に切ないフィルターをかけて人を見てしまうんです。でもそれは私が思っているだけで、寂しくてかわいそうに見える人も、実は幸せだったりするんです。そんな、幸せになろうともがいている人をコントで描き続けている気がします」

吉住さん自身、幸せについて考えたときに、ある先輩からの一言で自分の道に自信を持てたといいます。

「30代になって、周りを見渡すと結婚して子供がいる人ばかり。大多数の人が掴んだ幸せな人生を私は歩めないな、と感じたときに、光浦靖子さんが『私はTHE Wで優勝する人生の方が絶対いい!』と言い切ってくださったんです。そのときに、勇気を出してこの世界に飛び込んでよかったと思いましたし、私は幸せだと思えました。そういう素敵な出会いもあるから、人と違うこの道を選んだことに後悔はありませんね」

吉住さんが創作するにあたって欠かせないものをお伺いすると、「自分の顔かもしれません」という答えが返ってきました。

「私の顔って、どこにでもいる顔なんです。学年や親戚に一人はいる顔で、SNSでもその場所にいないのに目撃情報がたくさん来るんですよ。なので日常にいる人のコントをするときにリアリティがあって、説得力が生まれるんです。コントで描く人で卑屈な人が多いのは、私自身がそうだからなんですけど、自然に哀愁のある空気を纏えるようになったのも、ひとつの武器なんじゃないかと思いますね」

初めてドラマの脚本に挑んだ吉住さん。自分らしさをどこまで出すか悩んだといいます。

「私のコントは暗いものや悲鳴が上がってしまうものが多くて、その雰囲気を出すか出さないかを最初は悩みました。ですが芸人に脚本を依頼された意味を考えたときに、自分の持ち味を出すことが大事だと思いました。自分らしさは残しつつ、ポップさを意識して臨みましたね。脚本を書くこと自体は全然苦にならず、楽しかったです。お笑いとは別のジャンルの仕事をさせてもらえることで、コントに持ち帰られることがあるなと思いました」

行き先、食べたもの、いた人…
その日の全てをメモしています

2021年のキングオブコントで優勝した空気階段の水川かたまりさん。その優勝に導いたコントをはじめ、普通とは少しズレた人を描いています。その着想源はどこからくるのでしょうか。

「生きづらい人を描こうと思ったことはありません。こういう人は面白いな、笑えるな、という設定で好きに書いていたら、世間からズレたキャラクターになることが多いです。相方も含め、ちょっとズレた人が自然と好きなんだと思います。着想源は常にメモしています。毎日、行ったところ、食べたもの、喋ったこと、いた人、気になったシーン…。創作するときはそれを見返すようにしています」

同じく脚本芸人に参加する岩崎う大さんも、水川さんにとって重要な存在だといいます。

「もうひとつはかもめんたるさんの影響が大きいです。実際にないけどある世界の説得力がすごいと思っています。誰も選んでいない、細い道を進み続けて、全然知らないところに着地する得体の知れなさ。本当に人間を面白がっている視点が好きで、コントや脚本を書くときのヒントをいただいています」

ドラマの脚本を書くのは、今回で3回目だそう。コントを書くときと違うこと、反対に似ていたことをお聞きしました。

「今回は3話中の2話目を担当したのですが、僕が書く前に1話と3話は完成していたので、スタートとゴールはあらかじめ決まっている状態でした。それに加えて、テレビ局のある場所で2人が言い合うというのも決まっていました。2人の掛け合いというのは、コントと近いところがあったので、今までの脚本よりも書きやすかったですね。ただテレビ局の仕事はまったく知らない世界だったので、資料をいただいたり話を聞いたりしながら書き進めました。コントでは決め込みすぎずにやるときもありますが、脚本は全部台本の中で完成させて意図を伝えないといけないので、それはコントとは違うところでした」

好きな世界観のルーツは
感覚的に備わっていたもの

お笑い界だけでなく演劇界でも根強い人気がある、かもめんたる。岩崎う大さんの書いた戯曲は、演劇界の芥川賞と呼ばれる岸田國士戯曲賞に二度も最終候補として選出されています。演劇の世界に飛び込んだのは、ある二人の人物からの助言があったそうです。

「バラエティ番組のひな壇もトークも苦手で、どうしようか悩んでいました。そのタイミングでカンニング竹山さんと小島よしおから“演劇をやってみたら?”と言われたんです。それまで僕は演劇に興味もなかったんですけど、その二人が言うならと思って一度挑戦しました。やってみると、コメディの演劇はコントのネタ作りや演出とすごく近いなと思ったんです。それに演劇だとお笑い以外の感情も扱えるから、僕の好きな気持ち悪さとかを表現しやすかったんですね。それで演劇を始めることにしました」

自分の根源となる感覚はきっと誰しもあるなかで、岩崎さんにしかない価値観はどのようにして生まれたのでしょうか。

「自分が好きなもののルーツがどこから来ているのか、考えたことなかったですね。何かに影響されたというよりも、前世なのかなって思います。自分が何の食べ物が好きか、味覚のような感覚と同じですね。ちょっとおかしな人というのは、快感のポイントがズレている人だと思います。演出するときに大事なのは、どこにその人が快感を感じるのか、ということ。人間は結局快感を求めていたり、快適な場所を求めているんです。どこか人とズレている人は、その快感や快適さが人と違うところにあるんです」

ドラマのラストを飾る岩崎さんの脚本には、あるとんでもないシーンが存在します。多くの物語を手掛けてきましたが、今回の脚本作りでは初めてだったことがあったそうです。

「ラストを飾らないといけないけど、うまく綺麗にまとめているだけだと脚本芸人である良さや面白さがなくなると思ったんです。芸人じゃなくていいじゃん、とならないようにしたい思いがそもそもありましたね。吉住、かたまりの二人と一緒に作り上げていく感覚と、ライバルのような感覚もありました。ドラマのシチュエーションはまったく知識のない職場だったので、マニュアルを拝見したり、きちんと資料を見て脚本を書くことは初めてだったのでいい経験でしたね。人種年齢性別問わず、エンタメが好きな人にぜひ見てほしいです。どんな刺さり方をするのか楽しみです」

出演情報

3夜連続ドラマ 『脚本芸人』
2022年6月22日(水)、23日(木)、24日(金) 23時~23時40分 フジテレビ系列
制作・著作:フジテレビ

脚本:吉住、水川かたまり(空気階段)、岩崎う大(かもめんたる)
出演:第1夜:藤木直人、趣里 他、第2夜:遠藤憲一、知念侑李(Hey! Say! JUMP) 他、第3夜:酒井若菜、佐久間由衣 他
監督:風間太樹

CREDIT

PHOTOGRAPHER

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1996年東京都出身。東京造形大学デザイン学科写真専攻を2022年3月に卒業。元カメラマンの父の影響で写真を始める。雑誌やファッションブランドのルックを撮影するほか、個展など多方面で活動している写真家。

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WRITER

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1994年長崎県生まれ。本を作るレーベル bundleを立ち上げ、編集をおこなっている。その傍ら私情的エッセイと詩の狭間で言葉を使った表現をおこない、2020年には初の詩集「いっさいすべての春」を刊行した。

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