#FOCUS
MAI KIRYU
FOCUS VOL.01 木竜麻生
上手く生きられない私たちが
“おとな”になること
映画『わたし達はおとな』で、恋人との関係性に揺れる大学生の主人公を圧倒的なリアリティで演じた木竜麻生さん。彼女が考える“おとなになる”とは。
PHOTOGRAPHY
HANA YOSHINO
新進気鋭の若手演出家、加藤拓也さんによる初長編映画『わたし達はおとな』。妊娠をきっかけにすこしずつすれ違っていく男女の物語を、圧倒的に身近な日常として描いています。加藤さんの作品に初めて出演した木竜さんは、そのリアリティをどのように追求していったのでしょうか。
「加藤さんがインタビューで『初めて本読みをしたときに僕と木竜さんは、持っているリアリティの感覚や目指している世界感が違うから、まずは僕の考え方を理解してもらう必要がある』と話していました。そのことを後になって知って、リハーサルが共通言語や理解を共有する時間にしてくれたのだと思いました。加藤さんはリアリティを写実的にしている人だからこそ、“お芝居”としての表現を捨てることを体感しました。ひとつのシーンを作るとき、何度もそのシーンを繰り返して、どうしてそう思うのか、どうしてそんな距離感になるのか、細かく考えていくことで、物語のなかにじんわりと私自身が入っていく感覚がありました」
『わたし達はおとな』は“下手くそだけど私らしく生きる”等身大の女性を描く「ノットヒロインムービーズ」シリーズの第一回目となる作品。主人公はもがきながらも自分自身と向き合う女の子です。木竜さんは主人公の優実を「普通の女の子ですよね」と語りながら、相手を思いやることの本質についてこう考えます。
「優実には変なプライドがある。照れや恥じらい、見栄があって相手の表情やその場の空気を読んで、自分の思いを表せない。そんな女の子って、きっと世の中にいるなあと感じたんです。ですが、本当に相手のことを思うなら、自分の意見や考えも大事にして、時には伝えることも大切なんじゃないかと思います。誰かのことを大事にしたい、解りたいと思ったときに、同じように自分のことも思いやりたいですね」
「ノットヒロインムービーズ」の綺麗に生きられないヒロインに共感できるという木竜さんも、大人になっていく過程で気づきがあったといいます。
「きっとみんなが初めから上手に生きることができるわけじゃなくて、生きていくなかでちょっとずつ息のしやすい方法が培われていくものだと思うんです。学生時代は校則というルールがあったから、その枠からはみ出さなければ自然と良い子でいられたんです。でも、大人になるとそういう規範が一切ない。俳優はさまざまな人の言葉を自分の身体を通して伝える仕事ですが、ルールはないから、初めはとても難しく感じました。そのときに気がついたのは、私は思ったより嘘をつけないし、わからないことは顔に出てしまうから、上手に取り繕うとせず、私は私の演じる役を一番好きでいることが大切なんじゃないかと考えるようになったんです」
映画のタイトルにもある“おとな”とは木竜さんにとってどんな存在で、どんな大人でいたいのでしょうか。
「この仕事を始めたばかりの20歳のころ、地元から遊びに来た兄に『今なら伝わる気がするんだけど、麻生は心に思ってもないことを口にしているときがあった』と言われたんです。それは衝撃的な出来事でした。私にとって“おとな”というのは、自分のことを解っている人なのかなぁと何となく感じています。自分の好きな物や楽しいことはもちろん、嫌いなことや苦手なことも解っている。だからこそ、他人と接するときに、相手を受け入れるキャパシティがあって、人と人のやりとりに対して真摯なんです。そんなふうに私も年齢を重ねて、大人になっていきたいと思うし、そのために、自分にも他人にも嘘をつきたくないし、今の自分のことをなるべく大事に、肯定してあげられたらいいなと思っています」
映画『わたし達はおとな』は2022年6月10日(金)に全国公開されます。最後に、この映画をどんなふうに届けたいか答えていただきました。
「私の演じた優実は、実在する女の子じゃないのに、どこかで知っている子のような気がしていました。優実や、藤原季節さんが演じた直哉をスクリーンで見たときに、身近な友達の話のように感じてもらえたら嬉しいです」