GRIN

ふがいない僕の社会距離日記

パワー!

2週間ほど前、今年受けた健康診断の結果が届いた。肝臓が最低評価のF、痛風検査はD、中性脂肪は昨年の100から300に上がっていた。お酒はまったく飲まないので、過食や運動不足が原因になるようだ。そのことはしばらく前から自覚していて、ここ1年で体重はなんと10キロ以上増加した。会う人会う人に「なんか大きくなった?」と言われてきた。元々お腹は出ていてぽっちゃりとした体型ではあったが、自身の見た目についてさほど頓着がないため気にしていなかった。しかしこの数値を見た時、冗談抜きで「このままでは死ぬ」と思った。

なぜこの1年でそんなに太ったのかと聞かれれば、仕事のストレスだろう。昨年、今の職場に異動になり、思うように仕事ができない日々が続いた。ストレスを抱えたまま帰宅し、深夜に暴飲暴食を繰り返していた。あらゆる料理を平気で3人前くらいの量を食べてお腹いっぱいになるのが快感になってしまっていた。自分の体に良くないと思いながらも、食べることがやめられないのだ。そのまま1年が経ち、あの数値になって現れた。

痩せようと思ったとき、楽をして痩せる方法はないのかと考えるのが人の性である。色々調べてみると、最近の流行りはオートファジーと呼ばれるものだと分かった。16時間なにも食べないダイエット方法をそう呼ぶらしい。運動をせず1ヶ月で10キロ痩せたなどの声もある。どれどれと思いツイッターで検索してみると、どうもこのダイエット方法を推奨している人たちのプロフィール欄には起業や副業、フリーランスといった言葉が並び、ツイートには自己啓発系のビジネス書のおすすめが目立つ。なるほど、と思った。ここ数年で『10分で分かる〜』や『最速で分かる〜』などのビジネス書が一気に増えたが、最短で痩せるという噂のオートファジーとは親和性が高いのだ。また、太っていない人は自己管理能力が高く、痩せるための行動を起こすことができているといった文脈も読み取ることができ、ダイエットと自己啓発の相性の良さにも気がついた。オートファジーに関して言えば、食べなきゃ痩せるに決まっている。

やはり、運動をして食事制限をする健康的なダイエットがいいのだろうと思うに至り、僕はテレビの前でなかやまきんに君と筋トレをしている。YouTubeにはたくさんのダイエット方法が溢れているが、検索すると女性ユーチューバーのものが多い。電車の中やインターネットには女性に向けられた、痩せていることが美しくて正しいかのようなルッキズムにまみれた広告で溢れている。だからそれを体現するようにYouTubeにはモテや美しくなるための女性のダイエット動画が多いのだろう。実際に、職場にいる大学生のアルバイトの子にダイエットの話をすると、友達の男性に太っていると言われたから悔しくて痩せようと思ったことがあると言っていた。やはりこういった外部からの要請によってダイエットに駆り立てられる人が多いのだ。しかし、僕は世間から要請された美しさを手に入れたいのではない。死にたくないのだ。

なかやまきんに君のダイエット動画からは、ルッキズムや社会から要請された美しさのような香りがあまりしないのですんなりと受け入れることができた。なにより、筋肉をつけながら脂肪を落としていく方が健全に思えた。動画から優しくなかやまきんに君が励ましてくれるのも頑張れる要因だ。週に数回のランニングと動画を見ながらの筋トレ、カロリーの高いものは控える食事を淡々と繰り返している。

決して僕は筋肉を付けたいわけではない。小さい頃からぽっちゃりとした体型で太りやすい体質ではあったので、特に痩せるつもりはなく自身の体を受け入れていた。しかし、この1年の体の変化はそういう問題ではなくなったのだ。きっと増えた分が元に戻ったら、それ以上は痩せようとはせず健康診断に引っかからない程度のぽっちゃりでいるのだと思う。社会から要請されたかっこいい体ではなく、自分が無理をしない体でいるのだ。とりあえず今日もなかやまきんに君と筋トレをして、動画の最後にキメポーズをしながらあの言葉を一緒に言うのだ。

パワー!と。

CREDIT

WRITER

  • HOME
  • TWITTER
IMAGE

1994年生まれ。はてなブログにて日記を書き、本にしている。趣味は散歩。

  • HOME
  • TWITTER
MORE

EDIT

  • HOME
  • INSTAGRAM
IMAGE

1994年長崎県生まれ。本を作るレーベル bundleを立ち上げ、編集をおこなっている。その傍ら私情的エッセイと詩の狭間で言葉を使った表現をおこない、2020年には初の詩集「いっさいすべての春」を刊行した。

  • HOME
  • INSTAGRAM
MORE