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わたしはきっとわるくない 06
ぼくいずみ

夏の雨は嫌いになれない。毎日のうだるような暑さから解放され、ちょっと涼しいのも嬉しい。近所のミスタードーナツで、コーヒーをおかわりしながら本を読む。雨が似合う小説があって、心地よく読書を楽しめる。時折、窓の外を眺める。点滅する蛍光灯に映る雨の線が美しくて、些細なものに心が動く人でありたいと思う。新卒で大きな会社に入ったとき、研修の最後に「これから配属先で頑張ります」「同期と仲良くなれてよかった」とみんなが言う中で「道端の花に気がついて美しいと思える人でいたいです」と小さな声で呟いた。数年経った今も、お花を見かければつい写真を撮るし、見惚れて電車に乗り遅れるけれど、私はそれでいい、それがいい。

はっきりと、その名の通りの、夏休みがあった。新卒の会社も、そのあと勤めたところも、暦が関係ない仕事だったので夏休みが形通り支給されることが嬉しかった。わくわくを胸に迎えたものの、その気持ちを裏切るような日々の連続で、パンダ柄の布団に潜ってふて寝をする始末。プールに行けば生理が来るし、大好きな人と会う約束は2回連続で延期、恋人とは喧嘩をして別れ話、ネイルは何度塗っても剥がれてくる。日々の行いが悪いのだろうか。何をしても満たされず、虚無感で終わった夏休み。来年こそは、いや、冬休みこそは、今回よりも楽しいものになりますよう。

今年の夏を振り返ると、優しさや愛情について考える季節だった。優しいとは何か、愛とは何か。それについての本を読んだり、発言や行動をする前に「これは優しいのかな」「これは愛情かな、情かな」と考えたりする。優しさは誤解されやすいものだと思う。私はそれを優しいと思うけれど、人にとっては下心があるように感じて嫌な気持ちになることもあると知った。他人がどう思おうと自分の中の感情やその人への想いが全てだと思う。真実なんてその人にしかわからないけれど。「優しさは想像力だよ」とある女性から教わった。真っ直ぐな瞳と屈託のない笑顔で。その言葉は本当だと思うし、とても大事なこと、私がこれから心に沁み込ませていたい言葉だと思った。相手がどう思うか、どんな背景があるのかをなるべく想像してみて、発言したり行動したりする。突き放すことも優しさだと知ったけれど、本当にその人を突き放していいのか、絶望しないか。また別の女性から「みんなが幸せであればいいなと思う」という言葉を聞いた。子供みたいかもしれないけれど、みんなが笑顔で幸せに生きていてほしい。私がそうできる範囲の人にはそうしたい。愛を捧げたい。愛情と優しさは似ているようで別なのだ。愛したい気持ちと優しくしたい気持ちはイコールではない。私が本当に愛したいのは誰なのだろう。ゆっくり考えたいことだと思う。

夢とか愛とか、そんな光のもとで生きている私にとって、物語こそがすべてである。苦手なものは現実で、リアルなことを考えたり見たりするのが嫌。レシートの整理や家賃の支払いはついつい後回しになってしまうし、ニュースよりもアニメを見てしまう。成長しなきゃ、大人にならなきゃ、と思う反面、いつまでもロマンチックな心を持っていたい。人に優しくありたい。花を愛でたいし、フリルやレースにときめいていたい。私にしかない愛や光を抱きしめて、表現していたい。それが誰かにとっては気持ち悪くとも、理解されなくても、応援されなくても、いい。私は私の信じた世界で生きていく。だからあなたも、あなたの世界で生きていてね。

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1994年長崎県生まれ。本を作るレーベル bundleを立ち上げ、編集をおこなっている。その傍ら私情的エッセイと詩の狭間で言葉を使った表現をおこない、2020年には初の詩集「いっさいすべての春」を刊行した。

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イラストレーター、漫画家。著書に『Less than A4』『セッちゃん』がある。

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