GRIN

わたしはきっとわるくない 04
ぼくいずみ

新年度になって光るようなあたらしい毎日のはずなのに、何だか悲しくて落ち込む日々が一週間ほど続いた。寝ても覚めてもぼんやりしてしまって、そのことばかり考えてしまう。不意に涙が溢れそうになる。サイゼリヤでひとりぼっち、冷めたポテトを突いていることが急にどうしようもなく寂しくなって友人に電話をかける。悲しいことはどこまでも重なってしまうね。

その週の日曜日、友人が、パンケーキを食べたい、なんてベタなことを言った。どうせならとことんベタにしようよと朝8時半に待ち合わせをして食べに行き、せっかくなのでコースで朝食を食べた。
フレッシュなジュースにグラノーラ、焼きたてのパンに半熟の卵、ふわふわしたパンケーキが運ばれてくる。辛かった一週間が嘘のように、お腹いっぱいだよって笑って話して、天気の良い外を眺める。ああなんて、気持ちの良い一日の始まりなんだろう。コーヒーを飲みながら、このあとの予定を考える。観たい映画はちょうどいい時間がなかった。ふと思い出したのは、イギリスの現代美術家 ダミアン・ハーストの個展が近くで開催されていること。すぐに調べたらまだ会期中で、桜の絵が美しい。ねえこれ観にいこうよ、と誘って、すこし散歩をしてから美術館に向かった。

満開の桜、散っていく桜、葉桜、どれも美しい桜の絵に恍惚としながら、またお花見できて嬉しいねと小声で話す。最近書いていなかった詩も、何だか書ける気がした。絵の端を指さして、この部分は詩になりそうなんだ、と嬉しくなって友人に話しかけていたら、後ろから、すみません、と声がした。邪魔だったかな、と振り向くと、白のワンピースとストール、バレエシューズに籠のバッグ、春みたいなお姉さんだった。
綺麗で見惚れそうになっていると「今、写真を撮っていたらお二人がとても素敵に映ったんです。よかったら差し上げたくて声をかけました」と言われた。画面を見ると、見合っている私たちと桜の大きな絵。驚いたけれどお礼を言って、写真をいただいた。こんなことってあるんだねえ、と話してお姉さんが遠のく姿を見ていたら、もっと話したい!と思った。ラインでも聞いておいで、と友人が背中を押してくれたので、勇気を出して今度は私からお姉さんに声をかけた。お姉さんは驚きつつも頬を赤くして喜んでくれた。共通の趣味もあって、何だか出会えたことが、儚い桜のような奇蹟だった。

悲しいことと同等に嬉しいことも積み上がっていく。悲しいことばかりだ!と嘆くときもあるけれど、よく見渡してみれば、その悲しみの最中にも小さな幸せがあったりして、その幸せの光がまた少しずつ道を明るくしてくれる。人生とはそんなことの繰り返しなんだろうと思う。悲しいときにきちんと泣いて、嬉しいときはぴょんぴょん喜ぼう。どんな感情もわるくないし、すべて私の、大切な時間なのだから。

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1994年長崎県生まれ。本を作るレーベル bundleを立ち上げ、編集をおこなっている。その傍ら私情的エッセイと詩の狭間で言葉を使った表現をおこない、2020年には初の詩集「いっさいすべての春」を刊行した。

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イラストレーター、漫画家。著書に『Less than A4』『セッちゃん』がある。

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