GRIN

わたしはきっとわるくない 03
ぼくいずみ

明日は気温が18度ですっかり春だ。今日も薄手のジャケットに白のデニムで、身軽な格好だった。スターバックスで頼むドリンクも冷たいものになってきて、メニューもフラペチーノもピンク色、なんだか嬉しい。

春という言葉も季節も空気も時間も、私には触れられない聖域のような美しさがあって、簡単に、好きなんて言えない。手の届かない眩さにいつも瞬きしてしまうね。

季節が巡る少し前のこと。私は編集やライター、執筆という職業柄もあって、対話をすることが多い。ここ最近は、ありがたいことにいくつか取材で好きな人と二人きりでゆっくりと話すことができた。そのときに生まれる確かな温度の言葉たちがあって、それを大切にしながら原稿にしていく作業に、この仕事をしていてよかったと思う。
人と話すことも、もちろん会うことも好きなのだけれど、このご時世、なかなかすべて会って行なうわけにもいかなくて、オンラインで初めましてをすることが増えた。そのあと実際に会ったときに必ずというほど言われることがあって、それが身長のことだ。
私は168cmほどあって、大きいほうだと思う。しかし画面越しだと小さく見えるそうで、いつも現れたときに驚かれる。写真も同じで、あまり大きく見えないらしい。私は身長のことをコンプレックスだと思っていないから大して何も思わないけれど、これって一つの偏見だよな、と思ったのだ。

先入観やイメージによってその人を作ることは、誰しもあるだろう。身長のこともそうだが、私はガリガリだったから、モデルになれば?とよく言われていた。高身長で細身だったらそうなるよね。でも、何かが引っかかっていた。見た目だけじゃない私を見て欲しかったんだと思う。よく覚えているのは、みんなが口を揃えて言うなかで、師匠だけは言わなかった。数年後、「いずみさんは書く人だと思う」とはっきりと言ってくれたのだ。
何か思っていたとしても、なるべく口にしないことって意外と大事なのかもしれない。師匠のそのときのこともそうだ。私はおしゃべりだから、よく言葉を発しすぎて後悔することがある。それで最近気をつけているのは、思っていることを全部口にしないこと。そうすることで、後悔がすこし減ったし、いい気持ちで会話が終わる。

それに、人だけじゃなくて、物事にも偏見はあると思う。日本にあるロシア料理屋に嫌がらせがあったというニュースを見て、心底腹が立った。私が好きな舞台を「ああ、おしゃれ系の劇団ね」なんて言われた時は微笑みの裏で中指を立てた。人が大事にしているものを馬鹿にしちゃいけない。
しかしこんなことを言っている私にだって大きな偏見があったのだ。それが、ディズニーランド。「『夢の国だ!』ってはしゃいでいるなんて馬鹿みたい」とここ数年まで頑固として行かなかった。何度仮病を使ったのだろう。ディズニーランドに行く時間とお金があるなら、図書館や美術館、映画館にいきたいと言っていた。そのころの自分の感性はもちろん好きだけど、ディズニーランドは悪くないし、楽しいし、行く人だって馬鹿じゃない。実際に行ってみて気がついたのだ。こんなにも夢に溢れていて楽しいのか!と。ディズニーランドよ、ごめんね。

先日二回目のディズニーランドに行った。初めて耳なんかつけて、寒さのなかいくつもアトラクションに乗ったりして10時間ほどめいいっぱい楽しんだ。帰り際、シンデレラ城の前で写真を撮っていたら、高校生カップルに写真を撮ってくれないかと声をかけられた。見るからに高校生!という雰囲気で可愛らしくって、何枚でも残したくなり自前のフィルムカメラでも撮らせてもらった。話を聞くと、先日卒業したばかりだそうで、未来の光りかたに慄いた。ああ、少しでも明るい未来を作りたい。

「この世界に自分にしか叶えられない夢はありますか?」
私が大切にしている映画の台詞。私にしか叶えられない夢。あなたにしか叶えられない夢。そんなことできない?何も見つからない?そういうふうになれるわけがない?
ううん、きっと見つかるし、叶えられる。未来は果てしなく自由で、あなただけのもの。信じてみてもいいんじゃないかな。

CREDIT

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1994年長崎県生まれ。本を作るレーベル bundleを立ち上げ、編集をおこなっている。その傍ら私情的エッセイと詩の狭間で言葉を使った表現をおこない、2020年には初の詩集「いっさいすべての春」を刊行した。

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イラストレーター、漫画家。著書に『Less than A4』『セッちゃん』がある。

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