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FILM DIRECTOR
YUUKA EDA
KAORI AKITA
PHOTOGRAPHY
BOKUIZUMI
INTERVIEW & TEXT
# FEATURE

枝優花が考える、
やりたいことを実現
していくための心緒

夢を追いかけてまっすぐに生きることは、そんなに簡単ではありません。自分を信じることも、親や友人の目も、本当は不安でたまらない。それでもやりたいことはやってみたらいい、と淀みのない眼差しで語るのは、映画監督の枝優花さん。躓き悩みながらも、真っ直ぐに映画の道を歩みつづけています。

23歳で『少女邂逅』を撮ってから約5年。28歳になったばかりの枝さんに考え方の変遷やこれまでの道のりについて伺ってみました。

画面の向こうが私の世界で
漠然と行ってみたかった

「幼少期から友達が少なく、一人の時間や祖父母といる時間が多かったです。主に映画を見て過ごしていました。画面の向こうに友達がいるような感覚で、いずれその画面側に行きたいと思うようになりました。父が映画好きで、よく家でも観せてくれていましたし、映画館にも連れて行ってくれていました。特に6歳のとき映画館で観たスティーヴン・スピルバーグの『A.I』に眠れないほど衝撃を受けましたね。ハッピーエンドではなくオープンエンドで、鑑賞者に考えさせる映画を初めて観て、主人公のことばかり考えてしまいました。」

一つ目の転機が訪れたのは、10歳のとき。何気なく見た町内の回覧板に演技のワークショップが開催されると書いてありました。何か手がかりがあるかも、と思い切って母親に映画に関わりたいと伝えましたが、一握りの人しかなれない仕事だからお金は出さないとはっきり言われたそうです。

「それでも諦められず、お年玉を使って10歳から16歳まで通いました。演技をすることに面白さは感じなかったのですが、人のお芝居を見るのが楽しくてしょうがなかったですね。14歳のときにワークショップを手伝いに来ていた映画監督が、岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』を貸してくれました。当時、学校生活がうまくいっておらず、あまりにも出ている少年少女が自分と重なって見ていて辛かったです。でも16歳のときもう一度観て、こんなに田舎の女の子の傷に寄り添って物語を作ってくれる大人が映画業界にはいるんだ、というのを考えた時に、ちゃんと映画をやってみたいという気持ちになりました」

「流されたもん勝ちだよ」
自分の意志に流されてみよう
と思った

上京初日、早稲田大学の映画サークルに飛び込んだ枝さん。その夏にみんなで映画を撮るはずでしたが、監督の人が脚本を持って失踪してしまいます。

「3時間の話し合いをしても何一つ進みませんでした。痺れを切らして、手を上げて監督を引き受けました。とりあえず書いた脚本を先輩がすごく褒めてくれて。人生の中で、『この人によって今の自分が存在している』と思わせるような出逢いが幾度かありますが、そのうちの一つがその先輩との出会いでした」

初めての映画づくりを通し、もっと作品を撮ってみたいと思ったことから映画漬けの生活を送ります。

「大学4年間で映画にまつわる勉強をたくさんしました。1年で300本作品を観たり、脚本の書き方を勉強したり。6年間演技講師のアシスタントもしました。それに加えて、就活までの時間で映像業界で何がしたいかを考えないといけないなと思って、一通り現場にも入りました。CM、MV、舞台、ドラマの手伝いや助監督。一通り全部やってみたときに、一番映画が難しくてよくわからなくて面白いと思って、映画業界に行きたいと思い、就活はしませんでした」

就活をしない道を選んだものの、どうやったら映画の世界で生きていけるのか不安だったと話します。そのとき背中を押してくれたのが、現場にいた照明技師の一言でした。

「助監督をしていた映画の現場で、父と同い年の照明技師さんに出会いました。悩みを話したら『いいこと教えてやるよ、流されたもん勝ちだよ』と言われて。その人は意志がとてもある方でしたが、人生の流れに任せて、その時々の状況や気持ちに合わせて風のように仕事をやってきたと、自分のこれまでの人生について話してくれました。それらは、その方が実際に経験をして感じた言葉たちだったので、説得力が強くて、じゃあ私も自分の意志に流されてみようかなと思い、今の生き方を決めましたね」

自分の幸せを守るために
もっとずるく生きてもいい

枝さんの強い信念や抱えてきた感情が投影されたのが『少女邂逅』。

「誰かの幸せは誰かの不幸の上に成り立っていて、自分が不幸になっていることで誰かが幸せになっているという連鎖を信じています。生活をしていても、自分が今幸せなのは誰かのおかげなんだと思ってしまいますね。私が頑張ったから、なんて思えない。『少女邂逅』にはそんな部分も描かれています。羨ましいとその子を見ていても、本当はその子にも苦しさがあって、見えてるものが全てじゃない。人間は一面的でなく多面的だと強く思いますね」

国内外の映画祭に出品され、監督として注目を集めた枝さん。その中で忘れられない出来事があったと語ります。

「映画は言語も文化も越えられるんだと海外の映画祭で気づきました。スペインの映画祭を終えたときに、その国に住む10代の女の子から長いメッセージが届いたんです。『あなたの映画に救われた』という内容でした。10代の時の私だと思いましたし、あの頃描いていたものがかなったようでした。とても幸せな体験を映画祭を通じてさせてもらいましたね」

その後も数々の作品を撮り続けながら、SNSを通じてファンと交流をしています。質問コーナーにはたくさんの悩みや疑問が届くといいますが、どうして答え続けているのでしょうか。

「質問に答えるのは、私のためなんです。届けたい人たちが何に悩んでいて、何に興味があるかを知ることは大事だと思います。友達に言えないような悩みがたくさん届くんですよ。同じ悩みがたくさんあって、みんなが言えないことはこれなんだとわかりますし、企画会議で我々が考えるテーマより、もっと現実世界は繊細で複雑なものが蠢いていると感じます。最近その質問コーナーを通して感じるのは、漠然とした才能という言葉や見えない不安に振り回されている人が多いということです。でもそれはとても勿体無いことだと思います。漠然としたもので自己否定をするのではなく、今の自分の課題や目的を明確にして、そこから具体的な手段を考え、どんどん実行していくこと、それがシンプルに幸せになる近道なのかなと。不幸になることで安心しないで、幸せになる勇気を持った方がいいと伝えたいです」

やりたくないことはしなくていい
私が映画を好きな理由

生きていくために働かなくてはならないから、時としてやりたくない仕事をやることもあります。しかし枝さんは20代後半のある時期に、生きていくための仕事をすべてやめたと話します。

「そのときの風潮が、コンプライアンス。正しいことはもちろん大事です。でも正しいことを作り続けることが正しい道や世界を作っていくことなのか?と引っかかっていました。私は何に魅了されてこの世界に来たのかわからなくなってしまったんです。そのときにやりたくない仕事をやらない時間を作りました。それで気がついたのは、人間はそんなに綺麗じゃないし、もっと卑しいということ。その葛藤も描けるのは映画で、私はそんな作品が好きでした。数年かけて原点回帰をして、自分が好きなものをもう一度手に入れました」

やりたくないことはしなくていいし、ロボットのように周りに合わせる必要もない。そうするとどんどん自分らしくなって楽になれるといいます。

「映画業界は、自分の深海を求めてくれて、それを面白がってくれます。モニターの前が一番好きで、水の底に潜っているような感覚がありますね。ですが、人と違うことで私の人生があったのに、気がつけば日本の映画監督として成功するレールに乗れていない自分に焦ったこともありました。でもその成功が自分にとっての人生の喜びからかけ離れていて。成功するためのレールに乗って、本来撮りたくないものを撮るのはやめようと思い、そのレールを降りました。面白いことやみたことのない世界を一生見つめ続けたいので、レールがないところにどんどん道を作っていこうと思っています」

映画を撮りつづけたいのは
私が私を救うため

「撮りたいものはたくさんあって、いつか見てみたい世界をストックしています。映画に求めているものは共感ではなく、見たことのない世界を見せてほしいということです」。そう語る枝さんの眼差しの先には一体なにがあるのでしょう。

「作家は寂しくて孤独だった時間を救うために作品を生み出すと思います。私は少しだけ『少女邂逅』という映画を撮って救われました。これからは、常識から外れてしまった人たちを描きたいと思っています。…というのも私がそうだからなのですが。私が私を救うためにつくっていきたいです。そのために、常に自分に嘘なく向き合うことが大切だと思っていて。そうやって向き合い続けた結果、ここ数年心がどんどんとピュアになっていく感覚があります。誠実で優しい人でありたいと思ったり、映画は世界を救うと本気で信じていたり、子供みたいですよね。そうやって純度が増した分やりたいことしかやりたくなくて、生きづらいですが。それでもいいと思っています。私が信じる作品をつくるためには必要不可欠だと思うので」

CREDIT

FILM DIRECTOR

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1994年生まれ。群馬県出身。 2017年初長編作品 『少女邂逅』を監督。主演に穂志もえかとモトーラ世理奈を迎え MOOSICLAB2017では観客賞を受賞、劇場公開し高い評価を得る。香港国際映画祭、上海国際映画祭正式招待、バルセロナアジア映画祭にて最優秀監督賞を受賞。2019年日本映画批評家大賞の新人監督賞受賞。 また写真家として、様々なアーティスト写真や広告を担当している。

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2013年東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。スタジオエビスを経て2017年よりフリーランス。 雑誌、広告、WEB等を中心に活動中。

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