本当にやりたいことに向かう時、ちょっと寄り道したっていい。そんなふうに思うままに演劇の道をひた走る、新進気鋭の女優・見上愛さん。
中学時代に初めて観た舞台に衝撃を受けたことで、演劇の裏方の世界に憧れを抱いたという彼女。現在では、女優として、その独特の空気と観る者を劇世界へと引き込む演技力で注目を集めています。
「演出をするなら、演技も経験しておかないと」という思いから、大学で演出を学ぶと同時に女優活動を活発化する見上さんの考え方の変遷、彼女の世界を一気に広げることになった詩人・寺山修司氏の言葉との出会い、そして、どこか達観しているその視線から見える未来など、幼少期から馴染みのある吉祥寺の街で伺いました。
撮影が始まると「懐かしい!」と声を上げる見上さん。中学入学を機に父の勧めでギターをはじめ、放課後に友人たちと吉祥寺のスタジオでバンド練習をしていたといいます。
「音楽は今でも好き」と話す見上さんですが、父に連れられて観た演劇で、「生み出すエネルギーに衝撃を受けたんです」と、現在まで続く興奮をこう話します。
「終演後にお客さんがみんなすごく楽しそうで、会場全体がハッピーオーラに包まれていて。その物語のなかで生まれた感情に重なって引き込まれていって、自分の知らない感情やたくさんの感覚を得られるんだと感じました」
身近な人たちから裏方について聞く機会も多く、見上さん自身も照明や演出、脚本などの裏方の仕事に魅力を感じ、「これだ!」と直感したことから、中学3年の頃には演劇の道に進むことを決意。演劇系の大学を受験することも決め、経験を積むべく、高校の途中から演劇部に転部しました。
「かなりエッジの効いた部活で、寺山修司さん、別役実さん、野田秀樹さんなどの作品をやっていました。キャストも演出もどちらも経験して、両方の難しさも楽しさも初めて感じましたね」
「寺山さんの作品、難しかったです。でも、すごく好きになって」と振り返る見上さん。中学時代から将来を決めていた彼女ですが、いざ演劇をやってみると具体的に裏方の何をやりたいのかという自問自答を繰り返していたのだそう。そんな時に出会った寺山氏の言葉が、見上さんの背中を押しました。
「それまではずっと、『将来これをやりたいから、この大学に行く』みたいな道筋をしっかり立てて進まなければと思っていたんです。でも、寺山さんの残した『人間はもともと多面的なものだから、いろいろやることをわざわざマルチと言わなくていい』みたいな言葉に出会って、やりたいことをひとつに絞らず、いろいろやってもいいんだと思えるようになりました」
新たな気づきを得ながらも、「自分が表に出る発想はなかった」と話す見上さん。それでも女優として活動し始めたのは、ある役者さんから「演出をやりたいなら、演技も絶対やっておいたほうがいいよ」と後押しされたことが大きかったといいます。
「大学で演出の勉強はできるけど、演出って基本的に役者と向き合う時間がいちばん長い。だから、役者のことをわかっていないとできないなと思ったんです」
現在は大学で演出・脚本を学びながら、女優として引っ張りだこの見上さん。プロの現場を体感する一方、大学では演劇を離れていく人たちの背中を見送ることもあり、現実の厳しさも目の当たりに。そんななかで、見上さんは自分が女優であることに対して「良くも悪くも自覚がない」といいます。
「役者しかないと覚悟を決めて全部を賭けている方々の表現からはものすごい強さを感じます。でも、私はみんながそうじゃなくてもいいかなと思う。私はいろんなことに挑戦しながら、『女優“も”やってます』というかたちで一つひとつの仕事に真摯に向き合っていきたいです」
唯一の道に邁進する人の強さはもちろんある。でも、見上さんの言葉を聞くと、もっと欲張りでも、もっといろんなものに触れていってもいいんだと、心が軽くなるような気がします。
「同年代で活躍している人も多いですけど、人と比べてどうにかなるものでもないので焦りは感じません。ただ、たくさんのやりたいことを仕事にするのであれば、全部一流じゃないといけない。ひとつのことに特化した人には敵わない部分がたくさんあるから、どんどん学んでいきたいです」
「私、マイペースなんでしょうね」と笑う見上さん。「将来を決めなきゃいけない」という思いから進み出して辿りついた今、新たに「目的地や目標は変わってもいい」と感じているといいます。
「『目的地に絶対行かなきゃ』と思うときついじゃないですか。端から見たらブレてるように見えるかもしれないけど、途中で『やっぱりこっちがいい!』と思ったら方向転換します。それは今、私が若いからできていることなのかもしれません。でも、大学の同級生に夜勤の仕事をしながら大学で演出の勉強をしている30歳の方がいて。その方を見ていると年齢は問題じゃないなと思います」
見上さんは、いろんな人のいろんな生き方を見ることで「マイペースでもなんとかなる」と思えてきたといいます。ただ、それと同時に感じたのは「なんとかなっている人は自分でなんとかしている」ということ。
「実際に今まで考えているだけで何かが変わったことってないんです。やりたいことを言葉にするだけでも、物事は動いていく。ずっと『やりたいなあ、でもな……』って思っている状態ってただただ辛いけど、そうやって悩むってことは本当にやりたい証拠。だから、当たって砕けてダメだってわかったほうがスッキリすると思います。悩んでるくらいだったら行動あるのみです」
W主演映画『衝動』
池袋(池袋HUMAXシネマズ12/10より2週間上映中)、大阪(シアターセブン)2022/1/8より上映予定、愛知(名古屋シネマテーク)近日公開
https://saigate.co.jp/shodo/
映画『偽りのないhappy end』
12/17より公開
https://itsuwarinonai-movie.com/
RCC(中国放送)『叫ばないと生きていけない』
広島県を中心に2022/1/9より放送開始(※東京での放送はなし)
https://tv.rcc.jp/sakebana/
JRA 2022年年間プロモーションを担当
1ルック目
レインコート@geek_out_store
/ジャケット@onthecorner1002
/ガウン@houkago_no_omoide
/ニット、ショーツ@front_11201
/ソックス@__riprap__
/アームウォーマー @bonbon_laboratory
/ブーツ (スタイリスト私物)
2ルック目
ブルゾン@geek_out_store
/カーディガン、tシャツ@sidecar_charlie
/デニム@pigsty_shimokitazawa
/ソックス@__riprap__
/シューズ、缶バッジ@houkago_no_omoide
/ギター 本人私物
アップリンク吉祥寺 / スタジオペンタ吉祥寺サウスサイド / フルーツの一実屋