なりたい自分と現実の自分。そのギャップによって、一歩踏み出すことを躊躇してしまうことはないでしょうか。怖さやプライド、こだわりを物ともせず、己の道を突き進むのはモデルの畠山千明さん。
原宿の古着屋で名物店員としてさまざまな雑誌のファッションスナップに登場し、出産後にモデルとして本格的に活動を始めた畠山さんの軽やかな足取りの秘密、いい意味でのこだわりのなさについてじっくり伺いました。
たとえ好きだったり興味のあったりすることでも、一直線に情熱を注ぐのは難しいこと。しかし、畠山さんは「『怖い』とか『どうしよう』って思ったことはないです」と言い切ります。
「純粋に一度やらないと諦められないんですよ。『どうしよう』って足踏みして悩んでいても1日が過ぎてしまうなら、その1日を早く何かにつなげたい。結局やってみてもダメなものはダメなわけだから、それを早く知りたいんですよね。だから、自分に自信があるとか自己肯定感が強いとかじゃなくて、諦めが早くてこだわりがないんです」
生来の楽観主義だという畠山さんですが、小学生の頃から13年間、バレーボールをやっていたことも人生に大きく影響しているといいます。過酷な練習をするなかで、「怒られるとか、他人の言葉とかに対して、いい意味で鈍感になったのかも」と当時を振り返ります。
ただ、バレーボール以外には勉強も遊びもバイトもしてこなかったため、「私にはバレーボールしかない」という思いも抱いていたのだそう。だからこそ、バレーボールを辞めた時に「解放された!」という気持ちと「これから何をしたらいいんだろう?」という気持ちが同時に芽生えたといいます。
「バレーを辞めたら自分には何もないと感じました。そこで、興味のあったギャルになってみようと思い、ひたすら地元で遊ぶようになったんです。でも、結局ギャルをやっていても自分は何者でもないということに気づきました」
そんな思いの最中、地元の短大を卒業することをきっかけに、憧れていたアパレル業界に足を踏み入れた畠山さん。「一歩踏み出すからには全て断ち切ろう」と交友関係も断ち切り心機一転。原宿の古着屋で働くため上京しましたが、ここで初めての挫折を味わいます。
「自分が井の中の蛙だったということを痛感しました。『何かできるだろう』と思っていたけれど、東京では所詮大勢のなかのひとりでしかなかった。本当に何にもなれないし、何もできませんでした。アパレルに関しても知識不足だなと思いましたし、接客業と言っても接客だけじゃ服は売れない。買いつけも行かせてもらっていたのですが、全然売れなくて悔しすぎて、自分で20万円分くらい買い取ったりしていました」
何かできるという自分への期待。それが崩れ去った時、自分自身を認められずに苦しむこともあるでしょう。しかし、畠山さんは、「これまでやってきたことに対してのプライドはあるけど、知識がないことに対してのプライドは一切なかった」と自分自身を受け入れることができた理由を話します。
「とにかく悔しいと感じたことへの行動力だけはすごかったんです。根本的に、やることをやっていたら誰にも文句を言われる筋合いはないし、それでダメだったら『あ、もともとセンスがないんだ』って諦めがつく。だから、とにかくやることが大事なんですよね」
迷う前に行動する。それができるのは、やはり「こだわりやプライドのなさ」だと繰り返す畠山さん。“なりたい自分”になれなかったら……という気持ちが、迷いを生むこともあるかもしれません。しかし、畠山さんの生き方からは、完璧な自分を目指すよりも、今生きている自分の心地よいサイズ感を知ることの大切さが伝わってきます。
「私はいい意味で自分のことを諦めてるんだと思うんです。アパレルの時は頑張れば数字に表れましたけど、モデルはそうはいかない。だから、『自分が! 自分が!』っていう感じがないんです。自分がどう写るかよりも、周りのみんなをリスペクトしていますし、みんなで作り上げた作品が素晴らしいものになったらハッピー。私はあくまでその花添えをしているという気持ちだからこそ、仕事を続けられていると思います」
自分自身に対してのこだわりやプライドはないけれど、「楽しさへの欲望はある」と続ける畠山さん。
「自分を攻め続ければ続けるほど、心って簡単に潰れてしまうけれど、そんなことよりも楽しいことを見つけて生きたいんですよ。やりたいことがあるならそれに向かって頑張りたいし、その先ダメだったとしても、頑張ったという自信は絶対無駄にならない。他人は幸せな気持ちをくれるけど、やっぱり自分を幸せにできるのは自分ですから」
「やりたいことに向かったという事実から、いろんな芽が顔を出す」と畠山さんは続けます。何かひとつダメなことがあっても、その道のりで芽生えた何かを見つけられる力があれば、その先に花開くものがあるかもしれません。自分の道をパレードのように進む畠山さんは、一歩を踏み出せない人に対して「他人の言葉を気にする必要はない!」と力強く語ります。
「『誰かにこう思われるかも』っていう見えないものに怯えすぎなんじゃないかなと思います。私は常に“自分”でいたいし、自分自身に嘘をつかないことが、より良い明日を見れる第一歩だと思う。『ママなんだから』『いい歳なんだから』『社会人なんだから』とか、そういう言葉は関係ないし、もっと自分にベクトルを向けていけたらいいですよね」