数々のファッション誌や舞台に出演しながら、その発言などから「ネガティブすぎるモデル」と言われてきた長井短さん。ネガティブゆえにまわりに過剰に気を遣い、人から認められたいという意識も強かった彼女が、自分の居場所を見出したのは演劇の世界でした。
今回、生まれ育った府中市で撮影をしながら、長井さんが独特の目線で自身のネガティブさを分析。結婚生活のなかで閃いた新鮮な気づき、後ろ向きな人の居場所について伺って見えてきたのは、長井さんの“ただのネガティブ”ではない、自分をアップデートし続けようという気概でした。
この本には私の性格の悪さが詰まっていて、自分が思っていることよりも、相手がどう思っているかの方が気になって、本当に言いたいことは言わずに過ごすことが多い人生だった
—『内緒にしといて』前書きより
昨年秋に発売した自身初のエッセイ集『内緒にしといて』の冒頭からネガティブ発言フルスロットルの長井さん。「普通にいい人だと思われると、本性がバレた時に損するから嫌」「最初からクソ人間だと思って接してほしい」と、とにかく予防線がすごい。前書きからこの勢いの人を他に知らないので、世間のイメージどおりさぞネガティブなのだろうと、いざ会ってみると、長井さんは拍子抜けするほどとても明るく社交的な人でした。長井さん本人も「直接会う人には長井って陽キャじゃんって言われることが多いんです」と話します。
「これ、最近気づいたんですけど、ネガティブに見える人のことを『陰キャ』って言葉に置き換えた場合、私は『陽キャ』なんです。でも、『陰キャ / 陽キャ』以前に、『陰のもの / 陽のもの』っていう2つの性質があると思う。それでいうと私は『陰のもの』で、常に不安だから過剰に自分から喋って、まわりを楽しませようとするんです。行動原理は『陰のもの』なんだけど、アウトプットが結果的に『陽キャ』に見えるんですよ」
この理論に気づいたのは、一昨年入籍した夫の俳優の亀島一徳さんに「短ちゃんは俺と比べたら陽キャだよ」と言われたことがきっかけだったといいます。
「夫のほうが口数も少ないし、表面的には暗いんです。でも、夫からはやっぱり陽のエネルギーを感じるし、『なんで黙って座っていられるの?』って思っていたんです。何もしないでも人前にいられるって本当にすごい。そんな夫を見ていて『真の陽のものだ……』と思って。『長井は陽キャ』と言われて引っかかる部分もあったんですけど、この理論に気づけてだいぶすっきりしました」
そもそもTwitterのフォロワーに「ネガティブモデル」と言われたことを端に、そのイメージが波及していったと話す長井さん。アウトプットは陽キャのはずなのに、なぜネガティブに見られたのか、長井さんはこう考えます。
「直接人と会うときは、みんなを退屈させていないか怖いから、いっぱい喋るし、はしゃぐんです。つまり、陰のままではいられない。でも、Twitterってひとりでやるものだから『陰のもの』の性質が出ていたんじゃないかなと思います。他人と比べようがないから、自分で自分のことをネガティブだと思ったことはなかったんですけど、人から言われて初めて『あ、そうなんだ』と思いました」
自己分析しながら、「高校時代とか、モテたかったんですよ」と振り返る長井さん。モテたいけれど、なんとなく学校には居場所がない。そんなときに、高校の外で演劇を始めたことが自信になったといいます。
「演劇をやっていると、学校で存在感がなくても『あの人、学校の外部でなんかやっているらしいよ』ということが拠り所になっていました。たぶん、全方位的にチヤホヤされたかったんです。モテたいというか、認められたかったし、尊重されたかった。でも当時は、その感情が自分でも理解できていなくて、ただモテたいという認識になっていたと思います」
もともと幼稚園児の頃から俳優を目指し始め、中学時代も演劇部に所属していた長井さん。当時、大人計画主宰・松尾スズキさんの舞台作品『キレイ〜神様と待ち合わせした女〜』に衝撃を受けたという彼女は、自分の居場所と演劇に対しての思いをこう語ります。
「当時、映画やドラマを観ていて、なんでどんな役も容姿端麗な人がやっているんだろうと疑問だったんです。私は美少女的なビジュアルではまったくないし、現実だって綺麗な人ばかりじゃない。コメディにしても、男性ばかりが笑いを取る構図が多いことが嫌で、ロールモデルだと感じる人もいなかった。でも、大人計画を観た時、舞台上には本当にいろんな人がいた。物語ってこういうのがいいなあって思ったんです。今もずっと、居場所がない人がいるなんておかしいと思っています」
当時の状況におかしいという思いを抱きながら、みんなに認められたい、居場所がほしいとも感じていた長井さん。そんな状態で「陰のもの」の行動を取っていたら疲弊してしまいそうな気もします。高校卒業後、演劇活動を本格化させた長井さんは、休む暇がなかったというほど多忙な日々を過ごすなかで何を感じていたのでしょう?
「そのときはかなり躁状態でした。劇もどんどんやるし、いろんな人に会って仲良くなって最高!って思ってたんですけど、何も感じなくなっていきました。いきすぎた躁状態を維持するために、言いたくもない自虐を言ったり、本当は言い返したいことを飲み込んだりしていたら、『人に愛想良くするのって、なんのためにやってるんだっけ?』と思うようになってしまって。人に頼まれているわけでもなく、勝手にやってることなのに、どんどんすり減っていきました」
そんななかで仕事が少なくなった期間に久々に実家に帰り、ひとりの時間を持てたことで、長井さんは「もう自分をすり減らすことはやめよう」と決心。気持ちを整理するために、少し変わった日記を書き始めました。
「たとえばフラれたことを、最初は『いい思い出になった』とか書くんですけど、あとで『いい思い出になってねーだろ』って添削していくんです(笑)。一回自分にかっこつけさせてあげて、そういう自分も認めたうえで、ちゃんと現実を書いていました」
理想の自分と現実の自分。そのバランスの取り方を自分流に模索していた長井さん。日記を書いているうちに大きな気づきがありました。
「本当のことをダイレクトに書くのが辛かったから、そういうふうに日記を書いていたんですけど、書いているうちに自分に足りないものを見つけられないまま闇雲に走って、その忙しさに気持ち良くなっていただけだったんだなと気づきました」
「とにかく自分のことを考える時間が必要だったんだと思います」と振り返る長井さん。自省と俯瞰を繰り返して気づきを言語化し、自分を形作っている彼女が、現時点で目指す「長井短像」とはどんなものなのでしょう?
「SNSで『キモい!』とか書かれていると『私、キテる!』って嬉しくなるんです。みんな私のことを見慣れていないからびっくりするわけで、そんな私が表に出られるようになってきているって、いいことなんじゃないかなと思う。誰だって物語の中心にいていいはずなんです。だから、私を見てネガティブな印象でいいから、長井ができるんだったら私もできるかもって感じてもらえる存在でありたいです」
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